■感染症とワクチンについて■
感染症というと新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)やインフルエンザ、ノロウィルス、腸管出血性大腸菌感染症(O157など)を多くの方が思い浮かべることでしょう。
ここでは犬と猫の感染症に焦点を当てて、感染の仕組みと予防法について解説します。
新型コロナウイルス感染症は、犬と猫でも発症が報告されていましたね。
人と同じように、犬も猫も感染症にかかります。
感染とは、感染源となる病原体(細菌、ウイルス、カビ、寄生虫など)が生体(人間や動物)に侵入し、定着・増殖することをいいます。
単に病原体が侵入・通過しただけでは感染が成立したことにはなりません。感染の結果、生体に生理的・機能的になんらかの症状をだすことを感染症といいます。
また、人(または動物)から別の人(または動物)へと移る感染症のことを伝染病といいます。
■感染症の予防は、動物はもちろん、飼い主の身を守るため■
感染症は、その原因となる病原体を肉眼で確認することはできません。また、症状sがでない限り病原体に感染しているかどうかはわかりません。ですから、感染症対策についての意識は薄くなりがちです。病原体の細菌やカビ、寄生虫に対しての治療薬がありますが、犬にはウイルスに対しての治療薬がほとんどありません。感染させないようにするには、ワクチン接種などによる免疫の獲得によって感染を防ぐこと、あるいは感染しても抗体の力(免疫)で回復することです。
ワクチン接種とは
一般に感染症にかかると原因となる病原体に対する抵抗力(免疫)ができます。免疫ができることでその感染症に再びかかりにくくなったり、かかっても症状が軽くなったりします。このような体の仕組みを利用して病気に対する免疫をつけるためにワクチンを接種することを予防接種(予防注射)といいます。
犬や猫に特有な感染症ばかりではなく、ズーノーシス(Zoonosis:人と動物の共通感染症)と呼ばれる、人間と動物の両方に感染する病気もあります。犬に関係するズーノーシスには狂犬病、エキノコックス症、レプトスピラ症などがあり、これらの病名を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。猫に関係するズーノーシスには、パスツレラ症、トキソプラズマ症、猫ひっかき病(バルトネラ症)などがあります。
ペットの健康を守るには適切な栄養を取り、正しい疾病予防とストレスを避けた生活を飼い主が心がけることが大切です。なぜなら、栄養、ワクチン接種、ストレス回避が免疫に関わっているからです。ペットだけでなく私たち人間も同じですね。
■犬のワクチンと予防できる感染症について■
犬のワクチンは、重要度が高い順に「義務」「コアワクチン」「ノンコアワクチン」の3つに分類されています。
義務とされているのは、狂犬病ワクチンの接種です。狂犬病は哺乳動物すべてが対象となる全身性ウイルス感染症で、発症した場合は救命手段がなく、ほぼ100%死亡する怖い病気です。現在、日本では発生がありませんが、狂犬病予防法で犬の登録と年1回のワクチン接種が義務付けられています。
コアワクチンは義務ではないものの、感染率と感染後の致死率が高いことから、すべての犬にワクチン接種が強く推奨されています。コアワクチンの対象となるのは、犬ジステンパーウイルスや犬パルボウイルス、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型などです。ドッグランやペットホテル、ペットサロンなど、他の犬も利用する施設では、3種以上の混合ワクチンの接種済みであることの証明を求められることがあります。証明書はワクチン接種を受けた動物病院で発行してくれます。
ノンコアワクチンも義務ではないものの、生活環境や居住地域などにより高い感染リスクが想定される犬のみを対象としたワクチン接種が推奨されています。ノンコアワクチンの対象となるのは、犬コロナウイルスや犬パラインフルエンザ、レプトスピラ(細菌)などです。ノンコアワクチンも動物病院で接種してもらえます。義務である狂犬病ワクチン接種については、各自治体が4月~6月頃に集合注射でのワクチン接種を実施しています。
※犬や猫に感染する犬コロナウイルス、猫コロナウイルスは犬猫特有のものです。ヒトの間で感染し被害が広がっている新型コロナウイルス(COVID‑19)とは異なるウイルスです。
■猫のワクチンと予防できる感染症について■
ワクチン接種によって予防できる猫の感染症は
(1)猫ウイルス性鼻気管炎
(2)猫カリシウイルス感染症
(3)猫汎白血球減少症
(4)猫クラミジア感染症
(5)猫白血病ウイルス感染症
(6)猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)
の6種類です。
猫用のワクチンは、猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)は除く上記の病気を予防する複数のワクチンを組み合わせた「混合ワクチン(3種混合~5種混合)」の種類があります。
※猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)のワクチンは、混合ではなく単独で接種する必要があります。
猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症の3種は感染力が強く、いずれも空気感染をする恐れがあるため、室内飼育の場合でもワクチン接種が推奨されています。
そのほか、戸外に出る猫の場合には、3種混合ワクチンに猫白血病ウイルス感染症を加えた「4種混合」さらに猫クラミジア感染症を加えた「5種混合」のワクチン接種が推奨されます。
■感染症を防ぐにはどうしたらいいの?■
ワクチン接種と感染源を持ち込まない・持ち出さない・広げないことを意識する!
感染源を遮断するには
・感染症のペットを早期発見、早期治療すること
・常日頃から定期的に清掃する事による清潔を保持すること
・細菌やウイルスに合わせた適切な消毒を行うこと
感染経路を遮断するには
・手洗いやうがい
・環境の清掃を徹底する
・それぞれの感染経路別の予防策をしっかり行うこと
例えば家庭内の場合、環境衛生(清掃と消毒)に努め、特に多頭飼育の場合にはタオルやぬいぐるみ・おもちゃなどは個別に管理し、共有しないこと。ペットに感染症の疑いが出た場合は個室管理にして隔離し、排泄物やシーツやタオルなどは汚染があるものとして処分します。また飼い主は外出から帰宅した後の手指衛生と着替えを怠らないこと。
日頃からペット健康管理や感染症予防(ワクチン接種など)を怠らないことが最も大切なことになります。そして、持病がある抵抗力の弱いペットは抵抗力を高めることが重要です。抵抗力をつける為には、十分な栄養・睡眠をとる事や適度な運動を行う事、予防接種を受ける事などが重要です。
■検査を受ける前に知っておきたい感染症の豆知識■
感染してから検査判定するまでの期間に感染していることはわかりません。感染しているにも関わらず、検査結果が陰性になるというような状態をウインドウピリオドといいます。抗原検査の場合は、感染した病原体が一定量に増えないと検出できません。抗体検査の場合は、感染してから抗体ができるまでには時間がかかります。そして、感染症の検査結果を100%信頼できる検査は、現在まで存在していません。
■感染症対策はワクチンだけじゃない!
わんちゃん、ねこちゃんに使えるおすすめ漢方はこちら■
最近、ペットの健康維持でも注目されている漢方でも感染症対策をすることが可能です。
主に免疫力を調整する漢方薬や抗ウイルス作用がある生薬を活用することになります。また腸内環境も免疫に関係するため、胃腸が弱い時は胃腸を整える漢方を活用することも効果的です。免疫力を調整する漢方薬としては、有名な朝鮮人参と黄耆(おうぎ)の2つが入った漢方薬が汎用されます。
朝鮮人参と黄耆はともに免疫力をアップする効能がありますが、朝鮮人参は体内の深いところに働きかけるのが得意で、黄耆は皮膚の表面を整えるのが得意です。特に感染症の場合は、外から病気の原因が侵入してくるため、黄耆の働きが重要になってきます。
ここで、黄耆の説明をします。日本ではあまり知名度が高くはありませんが、黄耆は朝鮮人参と並んで二大補気薬として活躍する生薬です。「耆」には長の意義があります。黄耆は色が黄で補薬の長であることが名前の由来となっています。主な働きは、体表の新陳代謝や血液循環を促進し、皮膚の栄養状態を改善して、免疫力を改善します。また最近では、腎機能の改善効果で注目されています。
朝鮮人参と黄耆の両方が入った漢方薬を紹介します。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
虚弱で疲れやすく胃腸の働きが衰え、四肢倦怠感が著しく食欲不振などの症状が持続的に存在する慢性疾患に用いられます。
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
病後・術後の体力回復や増強、消化機能改善に用いられますが、特に皮膚の枯燥や血虚に使用します。また、免疫系が関与した疾患の体質改善に頻用されます。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
上記の2つに近いですが、特に咳嗽などの呼吸器症状や健忘などの中枢症状で用いられます。
なかでも補中益気湯は、胃腸の改善も含めて汎用される漢方薬です。
補中益気湯に含まれる生薬は以下のとおりです。
人参(にんじん) :ウコギ科、補虚薬 — 補気薬
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬
黄耆(おうぎ) :マメ科、補虚薬 — 補気薬
生姜(しょうきょう):ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬
当帰(とうき) :セリ科、補虚薬 — 補血薬
陳皮(ちんぴ) :ミカン科、理気薬
大棗(たいそう) :クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬
柴胡(さいこ) :セリ科、解表薬 — 発散風熱薬
升麻(しょうま) :キンポウゲ科、解表薬 — 発散風熱薬
甘草(かんぞう) :マメ科、補虚薬 — 補気薬
(1)黄耆は、皮膚と呼吸器を強化する
(2)人参、白朮、黄耆、甘草が消化器官を整える
(3)黄耆、柴胡、升麻などは筋力を正常化させる
(4)大棗、生姜、甘草は自律神経系の調整と自然治癒力を回復させる
補中益気湯はペットにも汎用しますが、胃腸が弱い日本人にはとても合う処方となっています。
■生薬でウイルスに負けない体に!■
生薬の中には抗ウイルス作用のあるものが沢山あります。その中でも動物性の牛黄(ごおう)、茸(ろくじょう)、そして植物性の田七人参(でんしちにんじん)について紹介します。なお先程の紹介した漢方薬に含まれている朝鮮人参もその一つです。
牛黄(ごおう)
牛黄は、牛の胆嚢などにできた胆石です。1000頭〜10000頭に1頭の割合でしか発見できないため大変な貴重です。
(1)組織を活性化する
・ホルモン、神経、免疫系の働きを良くします
(2)免疫を調整する
・抗体の産生を増強します。また補体を活性化します
・免疫複合体の除去能を促進します
(3)気道の炎症を予防する
・気道組織の炎症の指標の一つである血管透過性亢進を抑制します
(4)腎臓を保護する
鹿茸(ろくじょう)
鹿茸は、梅花鹿(ばいかろく)または馬鹿(ばろく)の幼角です。
伸び切る前のまだ柔らかい鹿の角です。
(1)ウイルスの不活性化作用を持っている(増殖を抑える)
(2)免疫能の正常化する
・ストレスなどで免疫能が低下した場合は、活性化します
・反対に免疫能が異常に亢進した場合は、正常に戻します
(3)ウイルス感染後の肺炎を予防
・ウイルス感染後の肺炎にNADPH酸化酵素の活性化が関与しますが、牛黄はNADPH酸化酵素の活性を抑えます。(マウスの実験で、ウイルス感染による死亡と肺の炎症が低下)
(4)心臓と肝臓の機能を改善
・動物性の生薬は強力の上、即効性があるのでぜひ知ってもらいたい生薬です
・植物性の生薬としては田七人参などが有名です。朝鮮人参と同じウコギ科の植物ですが効能は異なります。主に血管や肝臓の機能を改善するものですが、抗ウイルス作用も持っています
田七人参(でんしちにんじん)
田七人参は、中国南西部を原産地とするウコギ科の多年草です。
収穫に3年から7年もかかるため、別名は三七人参です。また”全不換”(お金では買えないもの)と言われています。朝鮮人参の10倍ものサポニンが含まれており、人参の王様と言われています。その他、サポニン・フラボノイド・有機ゲルマニウム・鉄分などを多く含んでいます。
田七人参の効能や適用例は以下のとおりです。
・抗ウィルス作用
・抗ガン作用
・血管強化作用
・免疫調整作用
・血行促進作用
・慢性肝炎
・肝機能障害
・肝硬変
・肝斑
・糖尿病
・本態性抗血圧
・抗ガン
・便秘
・ダイエット
・痔
・水虫
・胃、十二指腸潰瘍
・関節痛、慢性関節リウマチ
・止血
このように、田七人参の効能範囲は非常に広いです。
以上のように、感染症対策として漢方でも色々と活用できるものがあります。
使用するものは症状のみならず、体質によっても適切なものが変わるため、漢方の専門家にぜひご相談してください。