過日CNNより、このようなタイトルのニュースが流れました。
「4カ月間生き延びた飼い犬、雪の斜面で発見 飼い主と再会果たす 米カリフォルニア州」
(2022.01.13.)
大規模な山火事が起きた米カリフォルニア州の森林で昨年8月から行方不明になっていた飼い犬が、雪に覆われた斜面で4カ月ぶりに無事発見され、飼い主と再会を果たした、という内容でした。極寒の中で、4ヶ月もの間生き延びられたのはなぜでしょうか。
犬は、寒さに強い動物だからでしょうか。童謡の「雪やこんこ」でも歌われているように、犬は雪の降る寒い日でも外で走り回っているイメージがありますね。しかし、犬は種類や生活環境よって冬の寒さが苦手な場合があります。特に小型犬は寒い季節に弱く、冬の散歩には注意が必要です。
今回は、愛犬と一緒に寒い冬を快適に過ごすための、防寒対策についてご紹介します。
その前に、先の記事の極寒の環境下でも生き延びた理由を考えるために、体温調整のお話をしましょう。
■犬の体温調節のしくみと体温の適温(セットポイント)■
体温の調節機能は間脳の視床下部にあり、視床下部には「体温調節中枢」があります。
いわゆる体温を調節する司令塔のような役割を果たします。
体温調節中枢には「セットポイント」(平熱)と呼ばれる温度が生まれつきあり、人間の場合は36.5~37.5℃(体内酵素が活性化する温度)、犬の場合はそれよりもやや高く37.5~39.2℃くらいに設定されています。
ところが、何らかの病的な原因(細菌やウイルスへの感染、炎症など)によって、セットポイントが通常よりも高く設定されることがあります。このセットポイントの値が変更されるときがあるのです。
たとえば、セットポイントが37℃から39℃に変更されたとしましょう。
セットポイントが上昇したことによって、私たちの身体は体温を39℃に保とうとするために、次のような変化によって、身体は体温を上げようとします。
・血管の収縮によって血流を減少させ、体内の熱が外に逃げないようにする
・骨格筋の収縮によってふるえを起こし、熱を産生する
また、体温がセットポイントから1℃でも低くなると体温調整システムのスイッチが入り、さまざまなメカニズムを通して平熱にまで戻そうとします。
犬の体温が下がると、視床下部では全身の血管やホルモンを調節する内分泌器官に指令を出して冷たくなった血液を温めようとします。これが体温を逃がさないようにするための「保温」と、体温を上げるための「産熱」です。犬の体にはさまざまな保温・産熱システムが備わっており、体温がセットポイントから低くなりすぎないように調整しています。
犬は、寒い環境においては、口を閉じて鼻呼吸に切り替えることで気化熱の喪失を最小限に留めています。
また、犬の喉元にある甲状腺(内分泌器官)から分泌されるチロキシンと呼ばれるホルモンが体内における代謝をコントロールしています。冬になるとチロキシンの分泌量が増え、基礎代謝レベルが上昇し、体温を維持しようとします。外で飼われている犬の食事量が、冬になると60~70%も増加する理由は、基礎代謝の上昇に合わせて大量のカロリーを消費する必要があるからです。
しかし、その能力にも限界があり、体温が35℃を下回ってしまうと脳や内臓がダメージを受け、危機的な状態に陥ります。
これが低体温症です。
低体温症は時として死につながるため、特に気温が低下する冬はなんとしても体温を上げなければなりません。
-犬は歩き回ったり走り回ったりすることで筋肉が収縮し、体内で産熱が行われます。例えば、吹雪の中を長時間にわたって走り続ける犬ぞりレースで多いのは、走ることによって筋肉を動かしているそり犬は低体温にはならず、むしろ体温が上がりすぎて熱中症になる心配があるほどです-
■寒さに強い犬種と弱い犬種■
犬には寒さに強い犬種と、そうでない犬種がいます。
例えば、北海道犬やシベリアン・ハスキーなど、寒冷地域が原産地となる大型犬などは寒さには強い犬種です。
一方、トイプードル、チワワ、パグ、パピヨン、ポメラニアン、ブル・テリア、イタリアン・グレーハウンド、ミニチュア・ピンシャー、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグなどは寒さに弱く、寒さ対策が必要です。
寒さへの耐性と被毛の種類
犬種間で寒さへの耐性に差ができる大きな要因の1つに「被毛の種類」があります。
オーバーコート
皮膚を保護する為に生えている固く太い毛です、上毛、トップコートと呼ばれることもある。
アンダーコート
主に保温を目的とした綿のような柔らかい毛で、下毛と呼ばれることもある。
シングルコートの犬種(ヨークシャー・テリア、マルチーズ、狆、グレート・デン、ミニチュア・ピンシャー、グレイ・ハウンド、ダルメシアンなど)
オーバーコートに包まれ、防寒に役立つアンダーコートが少ない種類です。抜け毛が少なくなるようにと改良されたことにより生まれた種類であり、抜け毛が減ることで手入れが楽な特徴があるが防寒性が弱い。
ダブルコートの犬種(ボーダー・コリー、シェットランド・シープドッグ、セント・バーナード・ジャーマン・シェパード、ニュー・ファンドランド、サモエド、シベリアン・ハスキー、ラスカン・マラミュート)
オーバーコートだけでなくアンダーコートもしっかりと生えている種類です。シングルコートに比べ毛量が多い為、体温を逃しにくい特徴があります。
換毛期と呼ばれる毛の生え変わりがあり、ブラッシング等の手入れが増えますが寒い冬にも耐えられます。
本来イヌ科動物はダブルコートの生きものですが、人間が室内飼育をするために抜け毛が少なく手入れが楽なシングルコートの犬種を作り出しました。室内飼いであればあまり問題ありませんが、冬季の散歩など外に出るときには要に応じて寒さ対策をしましょう。
犬は被毛で体温調節を行う動物です。特に寒い国が原産の犬種では、冬にはフワフワとした暖かい毛に生え換わることで厳しい冬を乗り越える動物です。
しかし、現代の犬たちは、私たちと生活を共にし、エアコンの効いた部屋で過ごしています。
ですから、愛犬の環境(温度や湿度など)を管理するのは、飼い主の大切な役目です。
■寒いと感じているときに見られる行動■
寒いと感じているときは以下のような行動が見られます。
・小刻みに震える(シバリング*)
・体を小さく丸める**
・散歩に行きたがらない
・飲水量が減る
・人の側にぴったりくっついている(抱っこされたがる)
このような行動がみられたら、寒さに強いとされている犬種でも寒さ対策が必要です。
その他にも、なかなか散歩に行きたがらない、ずっと寝ている、水を飲む量が減っている、などといった場合も寒さが原因となっていることが多いので、日頃の状態を知っておくことが大切です。
特に水を飲む量が減ると、尿の量が減り、泌尿器系の病気になってしまうリスクも高まります。また、犬の体が冷えると下痢を起こす場合もあります。
尿や排便は寒がっているかの指標になるだけでなく、体の不調のサインにもなるので、細かい変化は見逃さないようにしましょう。
*シバリング(shivering)
体が震えたり、寒い時に口ががたがた震えたりすること。体温が下がった時に筋肉を動かすことで熱を発生させ、体温を保とうとする生理現象。
-低体温におちいった犬を対象として行われた実験観察では、シバリングなしの状態で2時間暖かい空気を吸引させたところ、直腸温の上昇が0.26~0.39℃/時、食道温の上昇が0.44~1.11℃/時だったの対して、シバリングありの状態で同様の復温を行ったところ、直腸温の上昇が2.26~2.33℃/時、食道温の上昇が1.96~2.38℃/時と大幅な増加を見せたことを報告(Effects of shivering on airway rewarming:Liu JY, 2009)-
人間で言うと「寒くてあごや手足が勝手にガクガク震える」状況をイメージすればわかりやすいでしょう。
**体を丸める
寒い環境においては皮膚の表面から電磁波として体外に放出される熱(放射、熱輻射)がなるべく少なくなるようにする。例えば、冬を迎える頃に首や腹部などの太い血管が通っているところの被毛の量が増やす、丸くなって体表面積を小さくするなどです。
■暖房器具について■
私たちが普段活用している暖房グッズについて、愛犬に用いる場合はどのように使ったらよいかを考えてみましょう。
エアコン
犬が快適と感じる室内温度は「18~22度」 といわれていますが、これは人にとってはちょっと寒く感じる温度ですが、犬にはちょうど良い温度なので、温度:20-23℃程 /湿度:50-60%くらいを目安にします。
しかし、快適と感じる温度には個体差がありますので、犬の様子を見ながら調節してあげましょう。
なお、暖かい空気は上にたまり、冷たい空気は下にたまります。サーキュレーターで空気を循環させると、犬がいる床付近までしっかり暖めることができます。
そして、エアコンのリモコンは、犬がリモコンに触れてスイッチを(ON/OFF)を入れてしまったり、温度設定を変えたりしないように、しっかり管理をしてください。
ホットカーペット・床暖房
床に近い位置で生活している犬が暖を取りやすい暖房器具ですが、やはり低温やけどに要注意です。
温度が一定に保たれる温度調節機能付きのものや、一定の温度になると電源が自動的にOFFになるもタイマー機能があるものもあります。そのような機能がなければ、飼い主が様子を見ながら電源を切るといった対策をしましょう。
また、使用する場合は、必ず床よりも小さいサイズのものを選ぶことをおすすめします。
これは愛犬が暑いと感じたときでも、カーペットの外側、涼しい場所へと移動できるようにするためです。
床暖房の場合は、暑くなったときに逃げ場がなくなってしまうというデメリットがあります。
床暖房を使用しているご家庭では、床の一部にすのこを敷いたり、すぐにソファに上がれるようにするなど、暑さから避難できる場所を作っておきましょう。
こたつ
寒い冬にこたつで温まるとポカポカと気持ちよくて、ついうたた寝をしてしまいますね。
犬にとっても心地よいのか、こたつを好む犬は多いと思います。しかし、長時間こたつの中に居ることはよくありません。
長時間こたつにすっぽり入ったままでいると熱中症、脱水症状、酸欠、低温やけど乾燥による皮膚疾患などを引き起こす危険性があり、こたつの中で熱中症を起こして死亡した例もあります。
また、よくあることですが愛犬が少しでも寒くないようにと、飼い主ができける直前に電源だけ切って出かけるのも危険です。
電源を切っても、こたつ内の温度は高くなっています。
外出の際は電源を切るだけでなく、こたつの布団をかならず上にするかどこか一面をあけて出かけるようにしてください。
ストーブ・ヒーター
私たちは部屋が暖まるまで、ストーブやヒーターの前に立って体を温めたりしますね。犬も同じですが、近づきすぎると被毛を焦がしたり、やけどをしたりする危険があります。
ストーブガードを設置するなどして、犬がストーブやヒーターに近づきすぎないようにしましょう。ストーブや暖房器具の周りにフェンスがないと、誤ってぶつかり倒してしたり、倒さずとも近くで遊んでいたおもちゃに着火して火事につながるという事故にも繋がりかねません。
そして、愛犬が寒くないようにと、ストーブなどをつけたまま部屋を離れたり、外出したりするのはとても危険です。
石油やガスが必要なストーブをつけっぱなしにしてしまうと、火事だけではなく、一酸化炭素中毒を引き起こす危険もあります。
-病中病後で体力が低下しているときや寒さに極端に弱い愛犬には、ペットヒーターを活用するのも寒さ対策のひとつ。ペットヒーターならば、熱くなりすぎてしまう心配がありません。ただし、子犬は電気コードなどをかじってイタズラしやすいので注意も必要です-
湯たんぽ
湯たんぽは、室町時代に使用されていた記録が残っており、非常に古くから愛用されている暖房器具のひとつです。
そして、光熱費がほとんど掛からず、経済的であり、室内の空気を汚したり、乾燥させることもなく、環境にもやさしい、震災時に防災グッズとしても注目され、湯たんぽは近年大変見直されている暖房器具なのです。
湯たんぽも犬の寒さ対策に使えます。ただ、低温やけどには注意が必要です。
低温やけどは、44〜50℃くらいの温度に長時間接触することで生じます。必ず厚手のタオルなどでくるんだり、湯たんぽカバーを用いたりして、直接湯たんぽに触れないようにしてから、犬のそばに置いてあげましょう。
飼い主さんの着古したスエットやセーターなどを袋状に縫って湯たんぽカバーを作ってあげるのもよいでしょう。
また、ペットボトルを使って簡単に湯たんぽを作ることもできます。
ペットボトル数本にぬるめのお湯を入れ、布で全体をおおうようにくるめば完成です。
しかし、犬が噛んでしまうと中のお湯が出てしまいます。また、ペットボトルをかじるときに口の中を傷つけたりケガをしたり、壊れたペットボトルの破片を誤飲することやすることもあるので、あまりお勧めはできません。
どの暖房器具を使う場合も、犬が暑くなったら涼しいところへ移動できるように環境を整えておくことが大切です。
例えば、自由に廊下へ行けるように犬が通れるだけドアを開けて、ドアストッパーで固定しておくといいでしょう。
また、暖房器具のコードをかじってしまうと感電する恐れがあります。
コードカバーで覆う、コードが露出しないように隠すなどの対策をしましょう。
■暖房器具を使わない防寒対策は■
毛布などの利用
愛犬が室内で過ごすドッグベッド内に、小型犬であればひざ掛け用の薄めの毛布(ブランケット)などを敷いてあげると、温かさがアップします。
愛犬は、毛布に潜ってみたり、上に乗ってみたりと、自分がもっとも心地よいように毛布を使うに違いありません。
とくに、飼い主さんが就寝時に暖房を切る夜は、室内犬は冷えやすいもの。
蓄熱材とあわせて、複数の寒さ対策を講じてあげましょう。
蓄熱材を活用
底冷えがする1階の住居や寒冷地方では、フローリングとドッグベッドの間に、アルミ素材の蓄熱マットや防災用品として100円ショップでも販売されているアルミ素材のブランケットを挟めば、床の近くで生活する愛犬の寒さ対策になるでしょう。
アルミシートが内蔵されたペット用マットなども市販されているので、そのようなドッググッズを探して活用してみてください。蓄熱効果が高いマットは、旅行の際にクレート内などにセットして持ち運ぶのにも便利です。
防寒着を着せる
冬場の外出時には、風を通しにくい素材の洋服を着せてあげるのがおすすめです。
イタリアン・グレーハウンドなどの首が長い犬種用には、首を温めるためのスヌードなども販売されているのでお気に入りをチョイスしてみてください。
また、高齢になって寒がっている場合、室内でも軽くて動きやすい防寒着を着せてあげるのをおすすめします。
冬の愛犬を同伴しての旅行にも防寒着・洋服を忘れずに持って行きましょう。旅行時の抜け毛の飛散を防ぐこともできます。
寒い日に犬に洋服を着せてお散歩へ行くのは、よい防寒対策になりますが、ずっと洋服を着せたままにしておくのはよくありません。
被毛に毛玉ができる原因になったり、蒸れて皮膚のトラブルを起こしたりすることがあるからです。また常に洋服を着せていると、体温の調節機能が鈍くなってしまったり、寒さへの抵抗力が弱くなり、ますます寒さに弱くなってしまう可能性があります。
寒い外へ出るときは洋服を着せて、暖かい室内では脱がせるようにしましょう。
皮膚への通気性を洋服が疎外するデメリットもあるので、高齢犬以外は、日常生活において室内でドッグウェアは着せないほうが良いでしょう。
マッサージをする
とくに血流が悪くなりがちなシニア期以降は、軽くマッサージやストレッチをして、身体を温めてあげましょう。
耳、足先、しっぽなどの冷えやすいポイントを、なでたり軽くもんだりするだけで、血行が改善されます。
散歩から帰宅してからも、足先や耳が冷えてしまった愛犬には、ホットタオルで体を拭いてマッサージをしてあげるのもよいでしょう。
使い捨てカイロを使うのは危険!
使い捨てカイロは手軽で便利ですが、犬の寒さ対策に使うのはおすすめできません。
カイロにずっと体を密着させていると、低温やけどを起こすことがあります。
また、犬がカイロの袋を破いて中身を食べてしまったら大変です。カイロの中身を食べて重篤な中毒症状を起こすことはないものの、大量に食べると激しい嘔吐や下痢を起こす恐れがあります。
■犬の雪遊びや散歩の際に注意すべきこと■
寒さや雪が得意な犬は、雪の中でも平気で駆け回ります。
多くの動物学者は犬が雪を見てはしゃぐ原因のひとつに、犬が変化を好む性質であるということをあげています。
犬にとって普段見慣れない冷たくて異質な雪は、景色や地形、匂いなど、犬の体に感じるさまざまな感覚を変化させ、自分が見知った世界とは違う環境に犬はとても敏感に反応しているのではないか、といわれています。
犬たちにとっては嬉しい雪ですが、この時期特有の注意点もいくつかあります。
融雪剤・不凍液
冬になると車に用いる不凍液や雪が降り積もるときに道路にまかれる融雪剤は、犬にとって有害で、重大な中毒症状に陥ることがありますので注意してください。
不凍液の主成分であるエチレングリコールは急性腎不全を引き起こし、最悪のケースでは死亡してしまいます。また融雪剤の主成分である塩化カルシウムを犬が接種すると吐き気や下痢の症状が出たり、肉球の炎症を引き起こすことがあります。
融雪剤は白くて見えにくいため気付かずに融雪剤の上を歩くことも多いです。融雪剤がまかれているような道路が犬の散歩コースであれば、犬には防寒具や靴などをはかせて体を保護しましょう。
予期せぬ事故
高く積み上げられた雪の上に犬を投げるのは危険行為です!
雪の中で犬を放り投げるようなシーンをSNSでよく見かけます。犬も飼い主も楽しんでいるように見えますが、かなり危険な行為です。
雪が深い場合、抜け出すことができなくなってしまう可能性があります。また、積み上げてある雪の下の状態がどうなっているのかわかりません。深い側溝が万が一隠れていたら救助できないかもしれません。
よく知らない場所であれば、地面や周りの安全状況を十分に確認することができないため危険です。
犬を雪の中で遊ばせるときは、よく知っている場所で、障害物のない平地にしましょう。
雪遊びの大好きな犬はとても興奮しますので、踏みしめた雪の下に側溝や段差、障害物がない場所であることが重要です。せっかくの楽しい雪遊びが思わぬ事故につながりかねません。
しもやけ
しもやけは寒さにより血行が悪くなることで生じる炎症であり、患部は赤く腫れて痒みを伴います。
犬も長時間寒さにさらされているとしもやけになり、痒みから患部を舐めたり噛んだりし、余計に悪化させることもあります。
肉球や耳の先、尻尾などがなりやすいので、事前に皮膚保護クリームを塗ってあげたり、散歩や雪遊びの後は、濡れたところをタオルでしっかり拭いてきちんと乾かし、保湿剤などを使ったケアが必要な場合もあります。
雪玉
犬の毛に雪が付着すると、周りの蒸気や雪の水分が固まり、また雪が付いては固まるを繰り返すことで、毛にびっしりと雪の塊(雪玉)ができます。
特に長毛種は顔周りや腹、足の飾り毛などに大量の雪玉ができるため、遊んでいるうちに重くなり動けなくなってしまうこともあり、取り除くのも一苦労です。
雪玉対策としては、体にフィットし、全身を覆うタイプのドッグウェアを着せたうえに、レインコートを着せるのがお勧めです。濡れて冷えることも防いでくれます。
雪を食べる
雪をパクパク食べる犬を見かけますが、お腹が冷えすぎて下痢の原因になりかねません。
また、それ以上に怖いのは道路の雪には融雪剤がふりまかれているかもしれないことです。
水代わりに雪を食べさせたりしないようにしてくださいね。
■外飼い犬の冬支度■
外飼いの犬ほど寒さ対策は必要です。
寒さが厳しい日や夜間には命の危険にさらされることもあります。日当たりがよく、北風が当たらない暖かい場所に犬舎を移動しましょう。
・段ボールなどを張って犬舎を保温する
保温効果のある段ボールなどを犬舎の外側にぐるりと張り巡らせましょう。
犬舎の床下にも段ボールや発泡スチロールなどを敷きます。冷気を遮断できるため、防寒性がアップします。
犬舎の中に毛布などを敷きましょう。底冷えを防ぐだけでなく、犬が自由にくるまることができ、自分の体温で温まることができます。
ただし、段ボールや毛布などを食べないように注意してくださいね。保温用の段ボールや毛布を囓ったり食べたりするようであれば、犬用のおもちゃや囓ってもよいものを犬舎に入れてあげるのも有用です。
そして、外飼いの犬の場合は、皮下脂肪を増やすため、いつものフードの量の10%を増やして与えましょう。
■そのほか、注意してあげること■
人間や犬を始めとする恒温動物の体温は、脳内にある体温調整中枢と自律神経系などによってコントロールされています。
しかしあまりにも温度差が激しい場所を行き来すると、全身の血圧や心拍数に異常が生じてしまうことがあります。いわゆるヒートショックです。
私たちが持病として高血圧や動脈硬化を抱えている場合や高齢者の場合、最悪のケースでは脳卒中や心筋梗塞を起こして死に至る場合もあります。犬にも同様なことが起きないとは限りません。愛犬には適切な防寒対策を行い、体が感じる寒暖差がなるべく少なくなるようにしてください。
■◎漢方薬・薬膳素材での対策■
寒さ対策には、漢方薬・薬膳素材も非常に有効です。
また冷えている場所によって、処方が変わります。
低体温の場合
そもそも体温が低いときは、体を温める素材が有効です。
この時、血流を改善する漢方薬・薬膳素材を併用することもお勧めです。
体を温める素材としては、蒸し生姜が有効となります。
血流を改善するには、朝鮮人参、松葉、熊笹の組み合わせが有効です。
・蒸し生姜(乾姜)
ショウガの根茎を蒸してから、乾燥したものです。通常の生姜は発汗作用が強く、発汗により体を冷やしますが、蒸し加工すると内臓を温める力が強くなります。
・朝鮮人参
ウコギ科オタネニンジンの根です。人参特有のサポニン・ビタミン類・ミネラル類を豊富に含み、五臓(肝・心・脾・肺・腎)すべてを補うといわれる薬膳の代表食材で、身体に元気をつける食材として広く使われています。
・クマザサ(熊笹)
イネ科クマザサの葉です。葉緑素(クロロフィル)を豊富に含み、腸の中のデトックスにおすすめです。
血液をキレイにすると言われています。葉緑素と同じ骨格を持つものとしては活性酸素を除去する酵素、赤血球中のヘモグロビン、骨格筋中のミオグロビン、神経機能を正常に保つビタミンB12などがあります。葉の成分にはトリテルペノイド、ミネラル類、ビタミン類も豊富に含まれています。
・マツバ(松葉)
マツ科アカマツの葉です。不飽和酸を含み、余分なコレステロールを除去します。
また血管に弾力をあたえて血管を強化する精油を含んでいます。
お腹が冷えている場合
お腹が冷えていると、消化不良のため、軟便や下痢になりがちです。この時有効なのは、人参湯という処方です。胃腸改善の効果がある朝鮮人参(=高麗人参)や低体温の場合にも使用した蒸し生姜が含まれている処方です。
人参湯の一般的な解説を下記に記載します。
こちらに記載されている乾姜は、蒸し生姜に相当します。
①冷え症、②下痢、③腹痛
胃腸虚弱で冷え症があり、下痢、腹痛、多量のうすい唾液がある者に用いる。急性および慢性胃腸炎、胃潰瘍、糖尿病に用いる。
■組成■
人参(にんじん) :ウコギ科、補虚薬 — 補気薬/微温
白朮(びゃくじゅつ):キク科、補虚薬 — 補気薬/温
乾姜(かんきょう) :ショウガ科、温裏薬/熱
甘草(かんぞう) :マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
※生薬の解説
・人参と白朮には胃腸機能を改善し、気を補う作用がある。白朮には胃内の停水を除き、人参と組んで弛緩した胃腸を引き締める作用がある。
・人参には、造血作用と胃酸を増加させる作用がある。
・乾姜と甘草は体内を温める。乾姜は主にお腹を温めて、冷えによって起こる腹痛、下痢、悪心、嘔吐などを治す。また甘草は冷えによる腹痛を治すために乾姜と合わせて用いられる。
足腰が冷えている場合
この場合、腰痛が起きていたり、排尿に関する問題が起きていることが多いです。
このような場合は、八味地黄丸という処方が有効です。
八味地黄丸の一般的な解説を下記に記載します。
①下半身の脱力、腰痛、②多尿、③冷え症
漢方的に腎機能の低下のために、腰痛、多尿、冷え症などの起こる者に用いる。
■組成■
(熟)地黄(じゅくじおう):ゴマノハグサ科、補虚薬 — 補血薬/微温
山茱萸(さんしゅゆ) :ミズキ科、収渋薬 —固精縮尿止帯薬/微温
山薬(さんやく) :キク科、補虚薬 — 補気薬/平
沢瀉(たくしゃ) :オモダカ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/寒
茯苓(ぶくりょう) :サルノコシカケ科、利水滲湿薬 — 利水消腫薬/平
牡丹皮(ぼたんぴ) :ボタン科、清熱薬 — 清熱解毒薬/微寒
〜以上、「六味地黄丸」〜
桂枝(けいし) :クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
(炮)附子(ぶし) :キンポウゲ科、温裏薬/熱
※生薬の解説
・地黄は、栄養を補い老化を防ぐ作用、消炎止血作用、神経反射を良くする作用がある。
・山茱萸は地黄の働きを助けて老化を防ぐ作用を助ける。また地黄とともに耳鳴り、めまい、腰膝のだるさや無力感、遺精、寝汗を治す。
・山薬は地黄とともに、寝汗、熱感、口渇、疲労感を治す。
・沢瀉は腎臓に働きかけて、血中の過剰の水分を尿として排出する。
・茯苓は、消化管内、関節内、筋肉内、組織間の水など、過剰な水分を血中へ移動させて、利尿する。
・牡丹皮は、出血やうっ血に伴う熱感や手足のほてりを治す。
・桂枝は、血行を良くして、瘀血(注1)の除去作用を助ける。
・附子は体内を温める。また桂枝と組んで寒さや余分な水分による関節痛、筋肉痛、腰痛などを改善する。
(注1)瘀血(おけつ)は、血液の流れが、何らかの原因で滞ってしまった状態である。瘀血によって、皮膚の黒ずみ、シミ、肩こり、しこり、頭痛や生理痛などの痛みなどの症状が現れる。
手足が冷えている場合
手足が冷えている場合は、ストレスや血流悪化が関係している場合が多いです。
ストレスに使用する素材としては、ミカンの皮である陳皮が有名です。
・ミカンの皮(陳皮)
熟したミカンの果皮を長期間にわたり乾燥させたものです。
古い(陳旧)のものが良いとされるので、陳皮と呼ばれています。フラボノイドやカロテンなどが豊富に含まれています。
漢方の考え方では、気の巡りを整えるものとして、ストレスや胃腸の機能低下などに用いられます。
また棗(なつめ)も有効です。棗は、胃腸によく、また貧血を改善しますが、代謝を末端に引き伸ばす効果もあり、手足の冷えにも使います。
・ナツメ(棗)
中国では「一日に三個の棗で老い知らず」ということわざがあるほど、古くから滋養強壮や老化防止に用いられています。
また、胃腸の調子を整えたり 精神安定の作用や血液を増やす作用もあります。 食欲不振やストレス、不眠、貧血の方などにおすすめです。
なお、漢方薬では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯という処方を使います。こちらは霜焼けにも使います。
この処方でも棗が使われています。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯の一般的な解説を下記に記載します。
①長期間の冷え、特に手足の先端、②腰痛、③しもやけ
冷えや血流の低下によって、腰痛やしもやけが起こる。頭痛、下腹部痛、腰痛、ばね指、不妊症などにも用いる。
■組成■
当帰(とうき) :セリ科、補虚薬 — 補血薬/温
桂枝(けいし) :クスノキ科、解表薬 — 発散風寒薬/温
芍薬(しゃくやく) :ボタン科、補虚薬 — 補血薬/微寒
木通(もくつう) :アケヒ科、利水滲湿薬 — 利尿通淋薬/寒
細辛(さいしん) :ウマノスズクサ科、解表薬 — 発散風寒薬/微温
大棗(たいそう) :クロウメモドキ科、補虚薬 — 補気薬/温
甘草(かんぞう) :マメ科、補虚薬 — 補気薬/平
〜以上、「当帰四逆湯」〜
呉茱萸(ごしゅゆ):ミカン科、温裏薬/熱(小毒)
生姜(しょうきょう) :ショウガ科、解表薬— 発散風寒薬/微温
※生薬の解説
・当帰には、皮膚、筋肉、関節、骨、神経などを温める作用があり、体の表面や四肢末梢(主に下半身)の血行を促進して冷え性を治す。
・桂枝は血行を良くし、体表部を整え、解熱、鎮痛、鎮痙、健胃作用の他に、抗菌作用、抗アレルギー作用が報告されている。
・芍薬と甘草には平滑筋、骨格筋の痙攣性疼痛を治す作用がある。しばしば芍薬と甘草が組んで使われる。また腸管の蠕動が異常となり、腹が張った状態を治す。
・大棗は緊張を緩和し、補血、強壮、利尿作用がある。
・生姜は体の表面と体内を温める。さらに胃の働きを改善し、余分な水分を除く。健胃鎮嘔作用もある。
・甘草は胃腸機能を整え、緊張を取る。肺の潤いを補う。また薬物、食物の中毒を解毒し、諸薬を調和する。
・大棗、生姜、甘草の3味の組み合わせは、古来より多用されており、自律神経系の調整と自然治癒力の回復に役立っているとされている。
・木通には利水作用があり、また瘀血を瀉下作用(排便を促す作用)により排除するのを助ける。
・細辛には、体を温める作用がある。
・呉茱萸は半夏のように悪心、嘔吐を抑える作用、乾姜や生姜のようにお腹を温める作用、茯苓や白朮のように胃の中の余分な水を除く作用、枳実のように消化管の蠕動をスムーズにする作用などがある。
以上のように、寒さ対策で使える漢方薬・薬膳素材は多数あります。ぜひペットにも活用してみてください。